Archive for December-2006

起きたまま見る夢 ~今敏「パプリカ」(2006年)

2006-12-01 17:00:00

怖い夢。誰でも、身の毛がよだつような夢を見ることがあるはず。目が覚めると、背中は寝汗でひんやり。心臓の音がはっきりと聞こえてきそうなほど。夢ならいつかは覚める。しかし、もし覚めなかったら?または、起きていても夢のほうからあなたの中に流れ込んで来たら?それこそまさに、悪夢ではありますまいか。
 
この「パプリカ」は、奇才、筒井康隆の原作を、世界的に注目を浴びる今敏監督が映像化したアニメーション。主人公の千葉敦子は、精神医学研究所に勤める美貌の研究者。巨体の天才、時田浩作と共同して、「DCミニ」を開発します。これは、患者の夢に入り込んで治療をおこなうという画期的な装置。敦子のもうひとつの側面が、DCミニを装着して男たちの夢の中に入り込む夢探偵としての顔。パプリカとは、夢探偵としての彼女のコードネームなのです。
 
ところがある日、DCミニが盗まれてさあたいへん!昼間は世間の約束にしたがって生きているわたしたちも、夢の中では好き勝手をし放題。つじつまのあわない、自分だけの世界を遊んでいます。精神のバランスをとるために必要だからです。その夢が、他人に覗き込まれたり、自在に操られたりしたら……。究極のプライバシー侵害?それもそうですが、精神そのものを破壊されてしまうのも同じ。そうはさせじと、夢と現実を股に掛けた、敦子と浩作たちの捜索が始まります。
 
虎穴に入らずんば虎子を得ず、とみずから悪夢の中へと飛び込む敦子。そこで見たのは、高速道路を進む、家具や不気味な人形たちや動物のパレード。溶ける体、ゆがむ壁、思わぬところでつながる時空。アニメーションならではの奔放な想像力と、カラフルな色彩。ぎゅっと凝縮されたスピーディな展開に、息つくヒマもありません。なんとも身の毛のよだつ原作が、映像化によってぐんとリアルに迫ってきます。
 
目覚めたまま夢を見せてくれるのが映画だとしたら、夢と現実が溶け合いながら90分があっという間に過ぎてしまう、この「パプリカ」こそ、映画の中の映画、なのかもしれません。ところで、原作者の筒井氏は、執筆中、連日連夜の悪夢にさいなまれ、(「連日」じゃないかも)ある朝、目覚めると、髪の毛が総白髪になっていたのだとか。本当だとしたら、この話、怖すぎです。

Category : 激コワ!覚悟はいかが?

和製ホラーの原点にして決定打 ~中川信夫「東海道四谷怪談」(1959年)

2006-12-06 17:00:00

さ、ここらでぼちぼち、真打ちに登場していただきましょう。中川信夫監督の「東海道四谷怪談」。アナログ感覚満載、和製ホラーの金字塔です。どれくらい金字塔かというと。中川監督のホラー以外の作品には、誰も見向きもしなくなってしまったほど。(いいのがいっぱいあるんですけどね)
 
お話は、だいたいこんな感じです。主人公は浪人・民谷伊右衛門。彼の婚約者が、かの有名なお岩さん。しかし、お岩の父、四谷左門に結婚を反対され、逆ギレした伊右衛門は四谷左門を殺してしまいます。で、事態をうまく丸め込み、めでたくお岩と結婚。すっかり夫婦の関係が険悪になった数年後。伊右衛門は、ひょんなことからお侍の娘、お梅を助けます。うっとうしい妻 vs. 結婚すれば出世が約束されている美貌の娘。となれば誰だって、妻を殺すっきゃない、と思うはず。もちろん伊右衛門も、あっさりお岩を毒殺して、お梅に走ります。で、ご存知の通り、こういう悪さをすると、「たたる」わけです。
 
そのたたりをどう見せるか。そこは監督の腕にかかっています。昔だから、CGはありません。香港じゃないから、ワイヤーアクションもありません。ついでながら、予算も時間もあまりなかったらしいです。ということで、なにからなにまで人力。戸板がくるりと回転すると、向こう側にはくくりつけられた死体が!帰宅して、桶で足を洗おうとしたら、入っていたはずの水が大量の蛇に!部屋の中で男を斬り殺すと、倒れこんだはずの畳が沼に!などと書くと、「なんだよ、色物か」と思うかもしれません。それはそのとおり。人工着色料たっぷりの駄菓子に似た味わいがあります。どこかぬめりのあるテイスト、中毒になりそうです。
 
ただし、この映画の見どころはそれにとどまりません。若杉嘉津子のお岩、池内淳子のお梅といった女優陣の美しさ。長身・色悪の名優、天知茂が演じる、伊右衛門のキャラクター。優柔不断かつ極悪非道という、考えてみたら最低男な伊右衛門と、ふたりの女とのからみは、たとえこれがホラーでなかったとしても、充分見ごたえのあるドラマなのです。
 
やりすぎなほどのたたみかけ攻撃でげっぷが出るほど怖がらせてくれたあとに、監督はとびっきり感動的なラストシーンを用意してくれました。伊右衛門が、ついにお岩に謝るのです。(遅すぎだよ!)すると、伊右衛門を許すお岩。ああ、本当にひとがひとを許すというのはこういうことなんだなあ、と、震えが来るほど。これはもはや、ホラーをはるかに飛び越えた、人類愛の映画なのです。それにしちゃ、めちゃくちゃ怖いんですけどね。

Category : 即死!ひとり見厳禁

怖がる娘 ~スティーヴン・スピルバーグ「宇宙戦争」(2005年

2006-12-11 17:00:00

古今東西、怖いものは数々あれど。共通する点はなんだろうか。と、考えてみます。仮定としてひとつ。「話の通じないヤツはこわい」というのはどうでしょうか。「ジョーズ」のサメであるとか、「ディープ・インパクト」の隕石であるとかが、この系統。話が通じない相手です。力づくでやっつけるか、いなくなるまで身をひそめているか、どちらかしかない。
 
今回紹介する映画も、その流れです。なにしろ、相手は宇宙人。トム・クルーズ主演、スティーヴン・スピルバーグ監督の、「宇宙戦争」です。ご覧になった方も多いと思いますが、お話はざっとこんな感じ。トム・クルーズはアメリカの下町の港湾労働者。ある日、地球上の各地にエイリアンが出現します。うまいこと息子と娘を連れて街を抜け出したトムさん、別れた奥さんの実家に向かいます。が、めちゃくちゃ強い宇宙人がそこらにうようよしているし、息子はトチ狂って、州軍に入って戦うぜ!とか言い出すし、娘はパニック状態になるし、さあー、父ちゃんどうする!
 
巨大・高速・凶暴と3拍子揃った宇宙人の乗り物「トライポッド」が注目を集めがちな本作。実は、それを怖がる人間が、きちんと人間として、ていねいに描かれているところが見ごたえありなのです。が、そのへんを紹介していると長くなりますので、ずばりここでは、娘役のダコタ・ファニングのことだけ。怖がるこの子を見ているだけでも、ほとんど元がとれてしまいます。
 
最初、何が起こったのかわからず、恐怖で半狂乱になるダコタん。かと思えば、次々に降りかかるショックを処理しきれずに、目を半開きにして、外界からの刺激に無反応状態になるダコタん。キィキィと金切り声を上げて、お兄ちゃんとお父さんをキレさせてしまうダコタん。大量の死体をうっかり見てしまい、気絶しそうになるダコタん。呼吸困難になるダコタん。これだけ多種多様な「怖がり」を演じ分けた子役も珍しいはず。いや、もう彼女の場合、子役呼ばわりは失礼。大女優、ですよね。
 
本作品、ジャンル分けすればSFになるのでしょうが、21世紀ならではの戦争映画でもあります。また、大災害のとき、パニくらずに冷静沈着な行動をとるためのマニュアルとしても鑑賞可能。さらに、子供を持つ親御さんや、児童心理学を勉強する学生さんにも、参考になるところ大でしょう。ダコタんの気を静めるため、お兄ちゃんが伝授するおまじないは必見!わたしですか?わたしは、なにか予期せぬ出来事に遭遇したとき、甲高い声で泣きわめいて周りをイライラさせるのはやめるが吉、ということをダコタんから学びました。

Category : ややコワ!ご用心

わんぱくロジャーのぬれぎぬ大冒険 ~アルフレッド・ヒッチコック「北北西に進路を取れ」(1959年)

2006-12-15 17:00:00

「恐怖」と「ユーモア」。このふたつの感情、一見、水と油のように思えます。とはいえ、感動のあまり大笑いしてしまったり、かっこよすぎて爆笑してしまったり。人間、感情の針が振り切れると、自然と笑い出してしまうもの。と、いうことは。怖すぎて笑い出してしまう場合もあるんじゃないか。てなことを考えて、ヒッチコックが映画を撮っていたかどうかは分かりませんが。ともかく、このサスペンスの巨匠は、そのユーモア感覚においてもかなりのセンスの持ち主でした。
 
今回は、彼の最高傑作の1本、「北北西に進路を取れ」です。ストーリーはごくごくシンプル。主人公はとある広告マン、ロジャー(ケイリー・グラント)。ひょんなことから、スパイに間違われ、殺し屋組織に狙われるハメになります。酒をしこたま呑まされて殺されかかったり、飛行機に追いかけられたりとさんざんな目にあいます。警察にも信じてもらえず、逆に殺人犯と間違われる始末。そんなロジャーくん、アメリカ大陸を転々とするあいだになぜか美女(エヴァ・マリー・セイント)と知り合い、彼女と行動を共にすることになりました。はてさて、ロジャーくんの運命やいかに。美女とのロマンスは成就するのか?
 
こう書くと、ご都合主義のバカ映画のようですけど。うーん、むしろアドベンチャー・ゲーム的な感覚ですかね。「迫り来る強敵をうまくかわして、次のステージに進め!」みたいな。ですから、見ているわたしたちは、手に汗握りつつ、「おー、ロジャーまたクリアしたよ。やるなー」「次の面は難しいらしいよ」「おっ、隠れキャラのオカンが出た」などとポテトチップスでも食べながら楽しんでしまえばよいわけです。
 
なにしろヒッチコックといえば、ハリウッドの大ボス的存在。その彼が繰り出してくる敵の数々、そうやすやすとクリアはさせてくれません。しかし、われらがロジャーくん、表情を変えずに黙々と敵を出し抜いていきます。その様子はどこか人間離れしていて、やっぱりゲームのキャラクターに近いものがある気がします。ぬれぎぬをはらすことも、途中からどうでもよくなってきますし。
何食わぬ顔でそんな映画を作ってしまうヒッチコック。監督、あなたがいちばん怖いです!

Category : 余裕!お子様でもOK

とりかえしのつかないことについて ~ジャン=リュック・ゴダール&ジャン=ピエール・ゴラン「万事快調」(1972年)

2006-12-23 17:00:00

ゴダール、という名前を聞いたことがあるでしょうか。いまでも、その名前はまるで呪文のように、ひとびとのあいだを飛び交っています。まず、「難解」。そして、「オシャレ」。もしくは、「革命的」。さもなくば、「ユルコワ」。おっと、そんなことを言っているのはわたしだけみたいですが。そもそも、難解でいてオシャレ、なんてあるのかしらん。
 
ではさっそく、「万事快調」、見てみましょう。かいつまむと、こんな話です。とある惑星の、とある国(フランス)にあるカップルがいます。彼(イヴ・モンタン)は映画監督で、食べるためにCMの仕事をしています。彼女(ジェーン・フォンダ)は、ラジオ局で働くジャーナリスト。このふたり、どうもうまくいっていない様子。そんなふたりが、ある日、彼女の仕事で、食肉製造会社の社長にインタビューをしに行きます。折り悪く、その日はストの真っ最中。労働者が、社長を工場に軟禁していたのでした。ふたりも巻き添えを食って、一緒に軟禁されます。やがてふたりは、あまりにもあっけなく釈放されます。めでたし、めでたし。
 
……となればいいのですが、そうはいきません。いったんこの事件を通過してしまったふたりは、もはや以前のふたりとは別の存在なのです。同じ家に住み、同じ食事をしていても、関係は微妙な変化を遂げ、見ている先は別の場所。「覆水盆に還らず」とはこのことです。
 
思えばわたしたちも、多かれ少なかれ、このカップルと似た経験をしながら、馬齢を重ねていきます。一度起こってしまったことは、とりかえしがつかない。でも、それはそれとして、どうにかこうにか進んでいく。よく知っているつもりでも、あらためて目の前に突きつけられると、ひどくぞっとする話。まあそうした、ほとんどやるせなさだけでできあがったような映画が、この「万事快調」なわけです。じんわりとボディ・ブローのように効いてくるおそろしさ。ですから、人生の山や谷を知ってからのほうが、よーく味わえるかもしれませんね。
 
で、オシャレなのか?についてですけど。これはずばり、オシャレでしょう。とにかく画面にちりばめられた色、色、色!白と青と赤が目にまぶしい。そう、フランスの国旗の色、トリコロール。これはフランスの映画だと強烈に主張していますが、それと同時に、見ているわたしたちの映画でもあるのです。

Category : プチコワ!カップル向け

「なつかしい」にご用心! ~原恵一「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(2001年)

2006-12-29 17:00:00

ん? 何かの間違いか?と思われた方。いいえ、間違いではなく、あのクレヨンしんちゃんです。一部でとても評判の高いこの作品、恥ずかしながらわたしも、このあいだ初めて見たのですが、ズバリ、どーんと太鼓判。クレヨンしんちゃんなんか興味ないよ、というオトナのあなたこそ、思いっきりハマる可能性のある1本です。
 
舞台はおなじみ、カスカベ市。ここにやって来た「20世紀博」に、このごろ大人たちは夢中。万博、特撮ヒーローや魔法使いもののTV番組、といった昭和の風俗が体験できるこの博覧会にすっかり骨抜き。大人は大人でなくなり、子供たちはほっぽらかしです。これ、匂いのない21世紀を拒絶し、世界を20世紀に引き戻そうとする悪の結社「イエスタデイワンスモア」のたくらみだったのです。洗脳され、連れ去られた両親を助けるため、世界を元通りに戻すため、しんのすけたちの戦いが始まります!
 
カラーTVなのに白黒で放送された「20世紀博からのお知らせ」を見たとたん、スイッチが入ってしまい、まるで別人のようになってしまう両親の表情に、まずぞっとします。翌日、ごはんを作ってくれないママと会社に行かないパパを置いて幼稚園に向かったしんのすけが見たのは、いい大人が道端でかごめかごめをしているところ。幼稚園に着けば、子供の姿はなく、大人たちが缶蹴りの最中。しんのすけにしてみたら、こりゃ災難。と同時に、見ているわたしたちにとっては、この壊れた大人たちの姿、バカバカしいと笑い飛ばしにくいものがあって、ちょっとこわい。
 
あのころに戻りたいなあ、と感じることは、誰でもときどきはあるもので、そのへんの気持ちをちくちくと刺激してきます。それでも、いやおうなしに1年に1回、年をとっていって、後戻りはできないわけで。それが現実。なつかしのフィギアや、復刻盤のCD、ビンテージのおもちゃ。そういったものは、適度にたしなむから楽しいんですよ、のめりこみすぎると壊れちゃって、戻ってこられませんよ、ということを警告してくれます。「クレしん」、あなどるべからず、ですぞ。

Category : 余裕!お子様でもOK

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