Archive for February-2007

君ほほえめば ~リチャード・ドナー「オーメン」(1976年)

2007-02-01 17:00:00

とくに怖い映画に興味のないひとでも、

この映画の主人公の「ダミアン」という名前と、

悪魔の数字「666」には見覚え、聞き覚えがあるのでは。

もし、「怖い名前の殿堂」なんてものがあるとしたら、

貞子、ジェイソン、フレディなどと並んで、

子供ながら堂々の殿堂入り、間違いなし。

それが、ダミアン。

 

シンプルなストーリーの中に、怖さがぎゅうっと凝縮されています。

主人公の外交官夫妻を演じるのは、グレゴリー・ペックとリー・レミック。

子供を死産で亡くしたこの夫婦、同じ日の同じ時間に生まれた

男の子を譲り受けます。

ところがこの赤ちゃん、実は、悪魔の子だったのです。

それが、ダミアン。

 

とはいえ、ダミアン自身は、いたってかわいい坊や。

キバを剥いたり、ドギツイ色の光線を発したり、突然巨大化したりは

決してしません。

しかし、ダミアンが動物園に行けばキリンたちは逃げ出し、

サルは興奮して襲いかかる。

ケモノの勘はバカにできません。

 

詳しくは触れませんけれども、ダミアンの周囲の大人たちが

次々に不審な死を遂げていく、この過程はかなりショッキング。

現代のスプラッターのように血が飛び散ったりはせず、

その分、品の良い怖さがあります。

 

それにしても、ダミアン。

顔はかわいらしいのに、そのほほえみの表情は、

まぎれもなく悪魔。

よくもこんな子供を見つけてきたものだ、と感心、感心。

 

お父さんを演じるグレゴリー・ペックが、またいいんですよ。

神父に忠告を受けても、最初は、ダミアンが悪魔の子だとは

なかなか信じられない。

それはそうですよね。

しかし最後には、ダミアンにナイフを振り下ろす。

葛藤を見事にあらわす名演技です。

 

これはもう、現代の古典といっていいでしょう。

見て、震えてください。

Category : 即死!ひとり見厳禁

たったひとりの反乱 ~ジェームズ・マクティーグ「Vフォー・ヴェンデッタ」(2005年)

2007-02-05 17:00:00

ひとつだけなら、なんの変哲もない単語。

それがふたつくっついて、面白い語感になることがあります。

たとえば、「メイド」+「カフェ」。

または、「恐怖」+「新聞」とかね。

 

わたしにとっての、そんなことばのひとつが、

「恐怖政治」。

こわいんだけど、笑っちゃう。ユルコワ。

今回は、そんな恐怖政治のおこなわれている世界の話。

 

舞台は、近未来のイギリス。

アメリカは暴動で無政府状態化しており、

「アメリカガス臭国」などと皮肉られている始末。

イギリスでは、サトラー議長が権利を掌握。

夜間の外出禁止、情報操作、秘密警察による監視などで

人民を支配する、超管理社会です。

 

ある晩。

主人公のイヴィー(ナタリー・ポートマン)は秘かに外出して、

秘密警察に見つかってしまいます。

そのピンチを救ったのが、謎の男、「V」(ヒューゴ・ウィーヴィング)。

このV、17世紀のテロリスト、ガイ・フォークスの仮面をつけています。

 

往年のガイ・フォークス同様、Vも破壊・殺人活動を繰り広げ、

国民に決起を呼びかけます。

「1年後、国会議事堂の前に集まろう」と。

そう、Vは、たったひとりで国家に反旗をひるがえしている男。

 

このV、かなりユニークな存在。

イヴィーを助けたものの、正体がバレるのをおそれて、

豪勢な屋敷に彼女を軟禁。

一緒に暮して、鼻唄を歌いつつ料理までしてあげるのに、

仮面は最後までつけたまま。

イヴィーにだけではなく、観客に向かってもです。

 

1年後、Vの計画は成就するや否や。

それは見てのお楽しみです。

 

この映画、原作はイギリスのコミック。

脚本は「マトリックス」のウォシャウスキー兄弟が担当。

つまり、

「現実にはありえなそうだけどカッコイイ展開」+

「よく分からないけど意味深なセリフ」

という構図。

 

ところで、公開時のキャッチコピーは、

「人民が政府を恐れるのではない 政府が人民を恐れるのだ」

というものでした。

サトラーは悪者で、それに立ち向かうVは正義の味方。

映画だと、往々にしてそうした単純化がなされがちですが。

見ていると、ふと背筋が寒くなります。

「ていうか、これって、テロリストっていうんじゃね?」と。

 

たとえていうなら、無法者が街を荒らしまわっているとき、

その悪者を銃で撃ち殺すことは是か、非か。

そんな堂々巡りの質問にも似たものをつきつけてくる感じ。

 

気軽に楽しめるヒーローものの仮面をかぶっていながら、

その下には、ぞっとするような素顔。

そんな、ちょっとひねった魅力の1本です。

Category : ややコワ!ご用心

みんなのいえ ~大島渚「儀式」(1971年)

2007-02-11 17:00:00

のっけからナンですが、この映画の怖さの判定は、

難しいです。

本当にぞっとするような作品と感じるひともいるでしょうし、

ひとによっては最初から最後まで大爆笑の連続、

かもしれません。

どっちが正しくてどっちが間違い、ということはなく、

そういう1本。

とにもかくにも、「問題作」には違いありません。

 

舞台は、地方のとある旧家、桜田家。

絶対的権力を持つ祖父・一臣(佐藤慶)のもと、

由緒正しい家柄が、代々続いています。

ある者は重圧に耐えかねて家を飛び出し、

残った者は、家の存続、というか、体面をたもつことを

最優先事項として行動しています。

 

右翼も左翼も、この「家」に守られていれば、

ぬくぬくと過ごすことができる、そんな「家」。

「家」さえ守られるならば、近親相姦、政略結婚、

なんでもありです。

ぐちゃぐちゃで、どろどろで、なあなあ。

その結果としての、ぬくぬく。

 

大島監督が、この一家の奇妙なありさまを通して、

戦後の日本社会を描いていることは明白ですが、

それでもなお、強烈なオーラを放ち続ける1本です。

 

いちばん印象深いのは、満洲男(河原崎健三)の披露宴。

桜田家の儀式ですから、当然、本人の意思の介在する

余地など皆無。

結婚相手から列席者の顔ぶれまで、すべてが祖父の支配下。

ところが、当日になって、花嫁が消えてしまいます。

そりゃそうでしょう。

誰だって桜田家のヨメなどなりたくないに決まっています。

 

で、どうなったか。

花嫁不在のまま、披露宴は決行されます。

透明人間の花嫁がそこにいるかのように、

満洲男がひとりでおめでたい席に立つのです。

 

この映画、全部がぜんぶ、こんな調子。

不条理コントのようでありつつも、同時に、

重苦しいものをど真ん中に投げつけて来る。

怖いのは、本質の部分では、わたしたちはみんな、

この桜田家のひとびととどこかで地続きであるという事実。

 

つまり、ときには爆笑しつつ、ときには恐怖に身をよじらせる、

そんな見方がいちばんふさわしい作品なのかもしれません。

「たまには変わったものが食いてぇー!」

というあなた。

どうですか、この珍味を味わってみては。

「怖いもの見たさ」とは、この映画こそにふさわしい称号でしょう。

Category : ややコワ!ご用心

たらーり、あぶら汗 ~アンリ=ジョルジュ・クルーゾー「恐怖の報酬」(1952年)

2007-02-16 17:00:00

ここのところちょっと小難しい系のものが続いていますので、

今回はガツンとストレートなやつをご紹介。

犯罪映画やスリラーに腕を奮ったフランスの監督、

クルーゾーの代表作の1本です。

 

タイトルからしてなにやら男くさくてカッコイイんですが、

あらすじというか、設定を聞くだけでわくわくするような映画です。

舞台は南米の田舎町。

本国で食いつめて流れてきた男たちが、仕事もなく金もなく、

故郷に帰ることもできずに、たむろしています。

 

そこに飛び込んできたニュース。

500Km先の油田で大火災が発生。

それを消すために、あるものを運ばなくてはならなくなりました。

報酬は大枚、2000ドル!

 

当然、町中の男たちがずらりと面接の列に並びます。

しかし、仕事とは、大量のニトログリセリンの運搬。

ニトロといえば、ちょっとした衝撃で爆発する危険物。

そんなおっかない薬を、安全装置もないふつうのトラック2台で

運ばなくてはならないのです。

選ばれたのは、マリオ(イヴ・モンタン)をはじめとした4人。

 

となると、

ジャングルを爆走するトラック!

襲いかかる原住民!

ブーツの中に侵入するサソリ!

みたいなものを想像するかもしれませんが、

クルーゾー監督、ちょっとひとひねり。

 

なにしろ、なかなかトラックが出発しない。

そのかわり、行き詰った男たちのやるせない暮らしを

たっぷり描写。

いざトラックが出発しても、爽快感あふれる爆走シーンは

ほとんどなし。

あんまり乱暴な運転したら、即、ドカーン、ですから。

 

大量のニトロのかもしだす恐怖もさることながら、

その背後に描かれる、流れ者たちの人生の切なさが

この映画の最大の魅力でしょう。

危機一髪の瞬間を乗り越え、全身油まみれになる

主人公、マリオ。

彼が受け取った恐怖の報酬とは、はたして……?

 

見ているといつのまにかあぶら汗が吹き出てくること、

間違いなし。

あまりにやるせない衝撃のラストまで、

目が離せないことをお約束しましょう。

Category : ややコワ!ご用心

地味だけど、不死身。 ~塚本晋也「鉄男~TETSUO THE IRON MAN~」(1989年)

2007-02-21 17:00:00

怖いことは、怖い。

ただし、それよりも、むやみやたらなパワーに圧倒されます。

好き嫌いが分かれる作品ですが、一度ツボにはまったひとにとっては、

生涯忘れられないかもしれません。

そんな強力な1本です。

 

直球まっすぐストレートなタイトルがあらわすとおり、

とにもかくにもこの映画、主人公の男(田口トモロヲ)の体が

鉄に侵蝕されていく有様を描いています。

きっかけは、ある日、“ヤツ”をひき逃げしてしまったこと。

 

ひき逃げ後、男のほっぺたに金属のニキビが出現。

そこをとっかかりにして、次第に肉体が金属化していきます。

怒りと悲しみにくれ、街を放浪する主人公。

そうこうしているうちに、体の大半が鉄になります。

そして彼の前に、ひき逃げしたはずの“ヤツ”が登場。

“ヤツ”もまた、金属化した体を持っています。

ふたりの鉄男のバトルがここに勃発!

 

とまあ、お話はだいたいこんな具合です。

が。

そのへんは、あまり気にしなくてもよろしいかと。

味わうべきは、都市にちらばる金属製の廃物をかたっぱしから

身にまとったような、鉄男の見てくれです。

かなり不気味でありつつ、同時に、

究極の進化を遂げた未来の人間像のようでもある。

(だとしたら、ヤですけど)

 

低予算のモノクロ作品につき、鉄男の造型はすべて実写。

CGもワイヤーアクションもなし。

ローテクな特撮ですべてがまかなわれており、

その手作り感に、妙な興奮と恐怖をかきたてられます。

ちょっとアレなたとえですが、ヘアヌードよりも

風にめくれたスカートからのぞいた太もものほうに

萌えるような感じ、といえましょうか。

 

とことんグロテスクなのに、ところどころ大爆笑もできる、

ある意味お得なこの映画。

ミニシアターで意外なヒットを飛ばし、

ローマ国際ファンタスティック映画祭ではグランプリを獲得。

塚本監督の出世作となりました。

あのタランティーノ監督もファンのひとりなんだとか。

 

余談です。

自分の中ではこれ、「最近の映画」っていうくくりなんですが、

考えてみたら、20年近くも前なんですね。

作中に出てくる黒電話に、なつかしさを覚えました。

Category : ややコワ!ご用心

山椒は小粒でピリリと怖い ~スタンリー・キューブリック「非情の罠」(1955年)

2007-02-26 17:00:00

スタンリー・キューブリックといえば、大監督です。

「2001年宇宙の旅」がおなじみですが、

「時計じかけのオレンジ」、「シャイニング」、

「フルメタル・ジャケット」、「博士の異常な愛情」など、

おっかない映画もいっぱい撮っているひと。

 

ここいらへんの名作は、いろんなところで紹介されていますし、

すでにご覧になっている方も多いでしょう。

ですので、今回は、この巨匠の初期作品をとりあげてみます。

たしかまだ、日本では、キューブリックではなく

カブリックと呼ばれていたころの1本。

 

主人公は、ボクサーのデイヴィと、ダンスホールで働くグロリア。

試合に負けて落ち目の彼と、店長に言い寄られてうんざりの彼女。

同じアパートに住むこのふたりは、ふとしたことで知り合い、

たちまち恋に落ちます。

心機一転のため一緒に街を出ようと、先立つものの工面を開始します。

お金ができたら、手に手をとって列車に飛び乗ろうというわけ。

 

ところが、ダンスホールの店長の画策で、

デイヴィは殺人の容疑をかけられ、グロリアは誘拐されてしまう。

救出に向かったデイヴィは逆につかまる始末。

 

命からがら脱出し、必死で逃げる彼。

追ってくる店長の手下たち。

ここの逃走シーンの緊迫感、なかなかのものです。

ようやく、大量のマネキンが(なぜか)置いてある一角に

逃げ込んだデイヴィ。

 

やってきた追っ手は、なぜかそこにあった斧(笑)を

ブンブン振り回して襲い掛かってきます。

デイヴィは棒を使って全力で応戦。

斧 vs. 棒。

手に汗握るバトルが繰り広げられます。

 

で、その結末は……

 

上映時間67分と小粒なこの作品。

のちのちの巨匠ぶりを予感させる才能が、

いたるところでキラリと光っています。

とにかく短くて、ムダがないサスペンス。

レンタル屋さんで「物足りないなぁー、なんかもう1本!」

というとき、付け合わせ的に借りてみてはいかがでしょうか。

 

余談です。

この作品、初公開時には67分ではなく、

そこから20分以上もカットされていたのだそう。

いったいどこを、と思ってしまいますが。

現在出回っているDVDは67分の完全版ですので、

どうぞご安心を。

Category : ややコワ!ご用心

1

footer ads here Powered by ちびログ
footer ads here