Archive for November-2006

映画いろいろ、怖さもいろいろ ~山田洋次「男はつらいよ(第1作)」(1969年)

2006-11-01 17:00:00

突然ですが、みなさん、怖い映画は好きですか?
「大好き!」
「うーん、どっちかっていうと苦手かな」
「普通だよ~ん」
「あーもう全然ダメ」
などなど。
たぶん、ひとによってまちまちですよね。

でも、わたしは知っています。
何をか、って?
それは、たとえ怖い映画は苦手でも、「怖いもの見たさ」の
気持ちのないひとなんて、ひとりもいないってことです。
どうです、思い当たるでしょう。

それに、怖い映画といっても、幽霊や妖怪の出てくるものばかりとは
限らない。
未知の生物や宇宙人。
浮気をしているお父さんにしてみたら、奥さんに浮気がバレるのが
何より怖かったりして。
そう、人間もけっこう怖いですよね。

そんなわけで、これから毎回、古今東西の映画の中から、
いろんな怖さを引っ張り出してご紹介していくことにします。
今回は、山田洋次監督の「男はつらいよ」です。
そう、あの寅さんです。

「えー、寅さんのどこが? いいひとじゃん」
「顔は四角くていかついけど、怖いってほどじゃないし……」
なーんてお思いでしょう。
それはシリーズもだいぶ軌道に乗ってからの、牙を抜かれた寅さんの話。
だまされたと思って、近所のレンタル屋さんで第1作を借りてみてください。

ご存知の通り、寅さんの職業はテキ屋。
いわば、良くも悪くも侠気に富んだ稼業なのです。
だから、やたらとケンカっぱやくて、口も悪い。
ちょっとしたことでおいちゃんやおばちゃんたちと
口論になるのはのちのちまで続くシリーズ名物ですが、
初期の寅さん、あまりにも容赦ない。

二日酔いのおいちゃんの代役で妹さくらのお見合いに出席するも、
酔っ払ってすっかりぶち壊しにしてしまったり。
舎弟を勝手にとらやに居候させたり。
あげく、それに文句を言ったさくらの顔を張り倒したり。
当然、おいちゃんは大激怒しますわね。
寅さんも本気で怒鳴りちらし、暴れ回ります。

あまりにもアナーキーで破天荒な寅さんにびっくりするはず。
これはこれでかっこいいんですけどね。
結論。
初期の寅さんは怖い。

Category : ややコワ!ご用心

「おっかないひと」がいた時代 ~李相日「フラガール」(2006年)

2006-11-06 17:00:00

昭和は遠くなりにけり。
常磐ハワイアンセンター(現・スパリゾートハワイアンズ)の
誕生秘話を描いた映画「フラガール」(李相日監督)を見て、
そんなことを思いました。

蒼井優ちゃんや、しずちゃんちゃん(南海キャンディーズ)たちが
いっしょうけんめい練習して、フラダンサーになる話です。
舞台は福島県の常磐炭鉱。時代は昭和40年。
わたし、石炭・炭鉱モノの映画が好きでして、
ボタ山とか出てくると嬉しくなってしまうのですが、
それはともかく。

この映画、最近ではすっかり見かけなくなった、
「おっかないひと」のオンパレードです。
まず、東京からやってきたダンスの先生、松雪泰子がおっかない。
まさに“鬼コーチ”という感じ。ビシバシしごきます。

ダンスを習いに来る娘さんの親御さんたちも、おっかない。
フラダンスはまだ物珍しかったのでしょう、
ストリッパーと混同して、そんなん許すかい、とばかりに
ビンタの応酬。

となると、松雪先生も黙っていません。
可愛い生徒にビンタを食らわしたその父親を探しに、
単身、ずんずんと銭湯の男湯に乗り込んでいきます。
(混浴じゃないです)
そして発見すると、湯船の中へと殴り込み!
(着衣のままです)

一事が万事、こんな具合。

ただ、納得できるかどうかは別にして、みんな「おっかなさ」が
真っ当だから、見ていていやな感じがしないのですね。
得体の知れない変質者がうろうろしている21世紀が
家庭で作ったべちゃっとした焼き飯だとすると、
この映画の世界は、強火で仕上げた中華料理屋のチャーハン。
こわいにゃこわいけど、夕立みたいに、
通り過ぎればからりと晴れ上がる。

そういえば、わたしが子供のころは、こういうひとたちがいたなあ。
懐かしくてこわい、いわばナツコワです。

あと、完全な蛇足で……。
クライマックスの見事なダンス・シーンで、蒼井優ちゃんが、
座った姿勢から背中をぺったりと床につけて倒れこんで、
そこからまたゆっくりと起き上がってくるアクションがあります。
白の衣装だったもんで、ここ、ちょっと幽霊ぽい。
要チェックです。

Category : 余裕!お子様でもOK

わたしがルールブックだ! ~ウィリアム・フリードキン「エクソシスト」(1973年)

2006-11-11 17:00:00

まったくホラーに興味がなくても、タイトルくらいは耳にしたことがあるはずのこの1本。耳にしたことがあるといえば、使われた音楽もそう。
マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」。
「題は知らなくても、聴けば必ず、ああ!といいたくなる曲選手権」が
開かれたら、かなり上位に食い込むこと間違いなしです。

物語は、わりと単純。
ある日。12歳の少女、リーガンの様子がヘン!
心配した母親が病院で検査をさせても異常なし。
しかし、そのうち、部屋のものが動くわ、おっかない声で話し始めるわ……

実は彼女には悪魔がとりついていたのですね。
なもんで、有名な悪魔祓い師(エクソシスト)の神父さんが呼ばれて、
神の力で悪魔を少女の中から追い払う。
その、手に汗握る攻防戦がこの試合の最大の見所。

え、試合?
と思われる方もいるでしょう。
そうです、これは試合です。
悪魔チーム vs. 家族チーム。
神父さんはいわば、呼ばれてきた助っ人コーチ。
だから、お父さんに向かってこんな風にアドヴァイスしてくれます。

「悪魔の口車に乗ってはいけない。悪魔は話術がうまいのだから」

さて、試合が成り立つためには、条件が必要。
ヤクザ映画には仁義があり、野球ならルールがあるように、
双方が同じ土俵に立っていなくてはなりません。

さんざん悪さをする悪魔ですが、この、同じ土俵、という点では
意外と素直。
なにしろ、キリスト教の公用語=ラテン語で、神父と直接会話するのです。
つまり、悪魔はキリスト教の中の存在だ、というわけ。

ですので、あまり信心深くない(=ルールに明るくない)。
大多数の日本人の目には、ただのスポーツの試合にしか見えない。
コワさよりも、ドキドキハラハラのサスペンス的な面白みのほうが
先にたってしまう。
見てすぐ分かりますから。

いや、とはいっても、
首がぐるりと回転したり、ブリッジしながら階段を駆け下りたりといった
古典的な名場面なんか、ふつうにコワいんですよ。

でも日本人には、キリスト教のルールに従って正々堂々と戦う。
悪魔と神父のガチンコバトルよりも、猫が化けて出たとか、
夕方道を歩いていたらサーカスにさらわれたとか、
そういうほうがよりコワいんでないのかなあ、などと思うわけです。

ともあれ、映画史に残る名試合。ぜひ一度、ご覧ください。
さあ、プレイボール!
じゃなかった。プレイバック!

Category : 即死!ひとり見厳禁

怖き者、汝の名は女なり ~ビリー・ワイルダー「サンセット大通り」(1950年)

2006-11-15 17:00:00

たいていの成人男性なら一度は、
「女って怖いよなー」と口にしたことがあるはず。
ところがその逆、つまり、
女性陣が「男って怖いわねー」と言っているのは、
ついぞ耳にしない。
男の聞こえないところでは、女も男を怖がっているのでしょうか。

てなわけで今回は、怖い女の出てくる映画。
ビリー・ワイルダー監督「サンセット大通り」です。
「お熱いのがお好き」や「アパートの鍵貸します」などで
有名なワイルダー監督は、話術の巧みさでは右に出るものがいない存在。
たとえるなら、ハリウッドの三谷幸喜、といったところ。

この「サンセット大通り」、映画が始まったとき、
すでに主人公のジョーは死んでいます。
彼が、自分が死ぬまでの顛末を語って聞かせるのがこの映画なのです。

落ちぶれた往年の大女優、ノーマの住む荒れ果てた屋敷に、
借金取りから逃れた若い脚本家、ジョーが迷い込んできます。
映画界復帰を狙うノーマは、ジョーを軟禁同然の状態で屋敷に住まわせ、
自作の脚本の手直しをさせます。
そのうち、ふたりの関係は仕事を超えたものになっていき、
嫌気が差したジョーは脱出を試みますが、しかし……というストーリー。

実際にサイレント時代(1910~20年代)の大スターだった
グロリア・スワンソン(当時51歳)が、
時代からズレまくって過去の栄光に生きるノーマを熱演。
別れた元夫(元映画監督)を執事として雇い、
ことあるごとに、自分の昔の映画を上映しては悦に入る。

よく、鬼気迫る演技、などといいますが、ここでのスワンソン、
まさにそれ。というか、執念の鬼になってます。
ブラウン管やスクリーンのこっち側にいる
わたしたちですら、悲鳴を上げて逃げ出したくなるほど。

最後、念願かなって、ノーマはひさしぶりにたくさんのカメラに
囲まれ、ライトを浴びることになります。
このラスト・シーンにも背筋が凍ります。必見。

ところで、「サンセット大通り」の構成に敬意を表して、
この駄文も冒頭に戻りましょうか。
身近にいた女性に、
「なんで女のひとは、男は怖い、といわないのだろう?」
と聞いてみますと、
「男なんてチョロい、と思っているからじゃないの」
とのお答え。

結論としては、やはり女は怖い、ということになるようです。

Category : 激コワ!覚悟はいかが?

コアラの国の神隠し ~ピーター・ウィアー「ピクニックatハンギング・ロック」(1975年)

2006-11-23 17:00:00

よく、「得体の知れない恐怖」などといいます。
しかし、考えてみると。
得体が知れないから怖いのではないか。
得体が知れてしまえば、それは対して怖くないのではないか。
とも思うわけです。

暗い夜道もそうですよね。
次の曲がり角で何が出てくるか、それが予測できないから、
怖い。
たとえば、
「次の角を曲がると、塗り壁が立ちはだかっているぞ」
と予告されていれば、実物を見たときの恐怖は半減する。
……はずなんですけどね。

ということで、今回はオーストラリア映画のご紹介。
「ピクニックatハンギング・ロック」です。
いわゆる、カルト映画の基本、的な位置づけでしょうか。
けっこう独自のコワさを持っている作品です。

ストーリーはわりと単純。
1900年の2月14日、女学校の生徒たちが先生の引率で
変わった形の岩山(鬼押し出しみたいな感じでしょうか)に
ピクニックに行き、そこで、3人の生徒とひとりの先生が
行方不明になる、というもの。

何が怖いって、何が起こったのかがまったく分からないところ。
少女たちを探しにいった若者はぶるぶる震えて茫然自失の状態で
戻ってきますが、何を見たのか、何も見なかったのか、
証言はありません。
行方不明になった少女のひとりは、後日、ぐったりした状態で
発見されるものの、こちらも記憶が完全に飛んでしまっている様子。

こんな調子で、真相は不明のまま、行方不明の少女たちは戻らぬまま、
終ってしまいます。
ホラーというとおどろおどろしい音楽や薄暗い画面が
つきものですが、この映画はちょっと違う。
オーストラリアのさんさんと降り注ぐ太陽の下、
ヴィクトリア風の衣装(ややアキバのメイドさんたちのようでもあります)の少女たちが不意に消えうせるありさまを、
淡々と描いている。
ただそれだけの映画なのです。

ただそれだけ。
何の理由もなく。
説明もなし。
これほどコワいことも、そうそうない気がするのでした。

Category : プチコワ!カップル向け

アメリカの厄落とし ~ポール・グリーングラス「ユナイテッド93」(2006年)

2006-11-29 17:00:00

怖い映画というよりも、「怖い目にあったひとたちの映画」です。
え、同じじゃないの、とお思いでしょうが、
まあおいおいお話しするとして。

このタイトルは、飛行機の便名。
ユナイテッド航空の93便のことです。
この便、2001年9月11日のアメリカの同時多発テロで
乗っ取られたうちのひとつ。
そのなかで、ただ1機だけ目標に到達しなかったこの便を
めぐる状況を描いたのが、この映画。

乗客、操縦士、スチュワーデス、テロリストに始まって、
地上の整備員、管制官などなど、人物はたくさん出てきます。
しかし、主人公はおらず、役者さんたちは見知らぬ顔ばかり。
そのため、あたかもその場にいるような臨場感が持続します。

飛行機が乗っ取られ、どうやら無事には戻れなさそうだと悟ってからの、
乗客たちの行動がリアル。
いえ、証人はいないのですが、少なくともリアルに見えます。
パニック状態になって泣きわめくひとたち。
座席の電話や携帯から家族に最後の別れを告げるひとたち。
スチュワーデスからフォークや消火器を借りてテロリストに立ち向かう男たち。

とはいうものの、これ、映画です。
阿鼻叫喚、てんやわんやから一歩引けば、
カメラがあり、照明があり、監督が椅子に座っているはず。
お昼になれば、さっきまで取っ組み合いをしていた操縦士とテロリストが、
「いてえなあ、本気で殴るなよ、ジョージ!」
「HaHaHa、かんべんかんべん、マイコー!」
などと談笑しながらサンドウィッチをパクついているかも。

不謹慎ですか?
では、こうした映画に、不謹慎でない作り方などあるのでしょうか。

同機は、目標のホワイトハウスをそれて、ペンシルヴェニア州の野原に墜落。
乗員乗客は全員死亡したのです。
この映画では、乗客たちの必死の努力でテロを防いだように
描かれていますが、実際は藪の中。
誰も分からないはずのことを、ドキュメンタリー風に仕立てて、
真実に見せかけ、乗客たちを英雄視する。
つまりこれは、アメリカにとって厄落としのような映画なのでしょう。

「乗員乗客は、怖い目にあったんだよ」
―もちろんです。身の毛がよだちます。テロはいけません。
「だから、こう脚色するのが供養なのだ」
―ふぅむ、そうですかね?

実行犯たちはどれくらい、そしてどのように恐怖を覚えたのでしょうか。
この映画からは、残念ながら、よく分からないのです。
アメリカ映画は今後もさまざまなやり方で、
この事件を怖がり続けることでしょう。
できることなら、その恐怖を体験しなかったわたしたちをも
怖がらせてくれるような映画が見たいものです。

Category : プチコワ!カップル向け

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