復讐!逆ギレ娘 ~西河克己「霧の旗」(1977年)

2007-03-21 17:00:00

復讐。

この世でもっとも恐ろしいもののひとつでしょう。

そんなことをしても起こってしまったことが元通りになるわけではない、

そう分かっていても、復讐せずにいられない。

そんな人間の心の動きを描いた作品です。

原作は松本清張。主演は70年代を代表するアイドル、山口百恵。

 

九州で起こったある事件。

小学校教師(関口宏)が、金貸しの老婆を殺した容疑で逮捕されました。

兄の無実を信じる妹(山口百恵)は、

東京の高名な弁護士(三国連太郎)に弁護を依頼。

しかし、多忙な弁護士は、貧乏な娘の依頼をすげなく却下。

結果、関口宏はロクな弁護も受けられず、獄死してしまうのです。

 

2年後、上京してホステスとして働いていた山口百恵は、

ひょんなことから三国連太郎の弁護士へとつながる

人脈のルートを発見。

そして、三国連太郎の恋人がある事件に巻き込まれたとき、

現場に居合わせたのです。

 

山口百恵が証言をすれば、女は救われる。

しかしその女は、かつて自分の兄の弁護を断り、

死へと追いやった張本人の恋人。

そんな相手を、果たして救うことができるものでしょうか?

 

まあ、はっきりいって、三国連太郎にしてみれば、

不運としかいいようがないのです。

弁護をしなかったのは事実としても、弁護士はほかにも

いっぱいいるのだし、憎まれるのは筋違い。

逆恨み、といってもいいでしょう。

 

しかし、当時18歳とはとても思えないほどどろどろしたものを

抱える山口百恵、奇妙な説得力があります。

アイドルにこんな役やらせていいの?

と心配しちゃいますが、持ち前の(?)かげりのある雰囲気が、

復讐に燃える女にぴったりなのですね、これが。

 

三国は、豪雨の中、公園で山口に土下座をして謝ります。

ふつうなら、ここで「勝った!」と判断して、

許してやりそうなもんですが、

そこから先がまた、ぞーっとするほどこわいんです。

ぜひ、ご自分の目をくわっと見開いて、ご確認あれ。

 

なお、同じ原作が、山田洋次監督、倍賞千恵子主演によって

映画化されています(1965年)。

こちらもDVDが出ていますので、見比べるのも一興かと。

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家族、親族、油断禁物 ~三隅研次「女系家族」(1963年)

2007-03-15 17:00:00

わたくし関東モンなので微妙なニュアンスが分からないのですが、

関西的なコワさってのが、ときどき、ありますね。

この「女系家族」、いわばそういった、関西系ファミリー・ホラーです。

 

(以下、ラップ風に)

Yo!

舞台は、大阪、老舗商店!

そこのご主人、ぽっくり昇天!

親族一同、ビックリ仰天!

娘三人、すっかり動転!

(ここまで)

 

えー。

娘たちの母である、主人の妻はすでに亡くなっていたため、

本来なら、相続権は娘たち(京マチ子など)にあります。

ところが、大番頭(中村鴈治郎)が主人の遺言を読み上げると……

なんと、亡くなった主人には愛人(若尾文子)がいたと分かります。

もし子供でもできていようものなら、

莫大な遺産の半分はそちらに行ってしまう。

 

そうはさせじと、三姉妹、番頭、叔母(浪花千栄子)、踊りの師匠(田宮二郎)

などがぐちゃぐちゃに入り乱れての遺産争奪戦が始まります。

親戚だから、家族だから、なんて遠慮は一切なし。

 

がめつく、えげつなく、もらったモンの勝ちやでー、

というわけで、ひとの箪笥はかき回すわ、

美術品はこっそり隠すわ、店の財産は横流しするわ。

それこそ、家中全員犯罪者、くらいの勢いです。

 

見どころはなんといっても、大番頭の中村鴈治郎(中村玉緒のお父上)と

叔母の浪花千栄子のやり取り。

「腹黒い」だとか、「腹の探りあい」といった言葉はこのふたりのために

あるのでは、と思ってしまうほど。

都合の悪い話になると急に耳が遠くなるという、

鴈治郎のオトボケぶりが最高です。

 

対して、浪花千栄子の行動はとにかくストレート。

あいさつに来た愛人・若尾文子の腹部をにらみつけ、

羽織の上から、「ややこがおるのんちゃいますか!」

と見破ってしまいます。

おそるべき眼力。

(「めぢから」ではなく「がんりょく」)

 

浪花が若尾あややにするとんでもない仕打ち、

そして、あややの鮮やかな反撃については、説明は差し控えておきます。

ぜひみなさまの目でご確認を。

 

古き良き富裕階級ならではの、ゴージャスな和服の着こなしは

目に美しいことこのうえなし。

そんなひとたちが欲に駆られて、

エゴをむき出しでのた打ち回るのですから、おもしろくないはずがない。

というわけで、今回いちばんこわいのは、「人間」でありました。

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本当の戦争の話をしよう ~増村保造「赤い天使」(1966年)

2007-01-30 17:00:00

大ヒットを続けている、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」。

ご覧になったみなさんも多いことと思います。

わたしも見ましたが、どうももどかしさが残りました。

アメリカ人が手袋をして握ったSushiを、

ナイフとフォークで食べさせられているような感じ。

 

で、今回は、日本人の、日本人による戦争映画をご紹介しましょう。

監督は増村保造。

東大を一度出たあとまた入り直し、2回も卒業した、すごいおひとです。

主演は若尾文子。

増村とは、20作品でコンビを組んでおり、そのほとんどが傑作です。

 

さて、この「赤い天使」、舞台は第2次大戦中の中国戦線です。

若尾が演じるのは、野戦病院の看護婦、西さくら。

前線で傷ついた兵士たちが次々に運び込まれてくる場所。

しかし、ロクにベッドもない、薬もない、人手もない。

ではどうするか?

 

助かりそうな者には最小限の治療をほどこし、

助からない者は、見捨てるのです。

で、その最小限の治療、とは?

 

体の中に入った弾を摘出したり(麻酔なし)、

壊死した手足をノコギリでギコギコ切り落としたり(麻酔なし!)。

モノクロ画面なのに、血の色が目に焼きつきそうなほど。

まるで物体のように横たわる兵士たち、

角材かなにかのように積み上げられた死体。

背筋が震えます。

 

そんな壮絶な日々の中、さくらは、手を失った兵士(川津祐介)の

性の処理を手伝ったり、軍医(芦田伸介)と恋に落ちたりと、

おそるべき生命力のうごめきを見せます。

ひとりの看護婦を超え、ひとりの女を超え、

それはまるで、若尾文子という一種の生物のように。

 

戦争ですから、バタバタとひとが死んでいきます。

兵士たちが死に、軍医が死に、目をかけていた若い看護婦が死ぬ。

それでもさくらは生き残ってしまいます。

生き延びれば生き延びるほど、それが異常な出来事であると

気付かされる場所、それが戦場なのです。

 

これに比べれば、イーストウッドの描く戦争は、

さしてこわくない、ママゴトの世界のように思えてきます。

わたしはさっき、「日本人の、日本人による戦争映画」と書きました。

この映画を、そしてほかの数々の日本の戦争映画を、

「日本人のためだけのもの」にしておくのはもったいないし、

また、よくないことだ、と強く感じます。

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幸福という名の恐怖 ~アニエス・ヴァルダ「幸福 <しあわせ>」(1965年)

2007-01-25 17:00:00

「バカヤロウ」が愛の言葉だったり。

「愛してる」とささやきつつ、実は愛してなかったり。

「君には大いに期待しとるんだよ」と喜ばせといて、

水面下では左遷の準備を進めていたり(上司)。

世の中、なかなか見かけどおりには動いていないみたいですが。

 

この、「幸福 <しあわせ>」と題された短い映画もそんな1本。

タイトルどおり、とある一家の幸福な日常を描いています。

しかし。

これは、なかなかにおそろしい作品。

 

主人公は、建具屋で働く青年。

自宅で洋裁をやっている奥さんと、かわいいふたりの子供。

物語は、4人が森にピクニックに行くところから始まります。

 

揺れるひまわり。

暖かい日差しとさわやかな風に眠気を誘われる夫婦。

子供たちは蚊帳の中でお昼寝です。

バスケットにはパンとワイン。

これが幸福なのだ、といわれれば、なるほど、うなずくしかない光景。

 

あるとき、青年はよその町に出張に出かけます。

そして、そこの郵便局で勤める娘と仲良くなります。

聞けば彼女、今度、青年の住む町に転勤になるのだとか。

繰り返されるデート。

よくある話です。

 

さて、この映画はいわゆるミステリー、謎解きものではありませんが、

ここから先に起こったことに触れると、

これからご覧になるみなさんの楽しみと恐怖とを台無しにしてしまう

おそれがあります。

 

ですから、この映画で起こらないことを、いくつか書いてみます。

 

まず、本妻と浮気相手がはちあわせしたり、

ののしりあったりすることはありません。

登場人物が声を荒げたり、暴力を振るったりすることも一切なし。

銃も刃物も、出てきません。

血も流れません。

だましあいや、かけひきもなし。

 

それじゃあどこがこわいのか、と疑問に思われることでしょう。

そこはやはり、みなさんがご自分の目でたしかめていただかないと!

 

おしまいは、はじまりとよく似ています。

見るからに幸せそうな一家が森を訪れ、並んで歩き去っていく後ろ姿。

このうえなくのどかなラストシーン。

それでいて、見ていて背筋が凍りつくようなのでした。

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すべての女の名前はイヴ ~ジョゼフ・L・マンキーウィッツ「イヴの総て」(1950年)

2007-01-05 17:00:00

芸能界と名がつくところ、いろいろと怖い話の宝庫のようで、

海を渡っても事情は同じ。

エンタテインメントの本場は、怖さもまたすさまじい。

とまあ、そんな映画が、今回ご紹介する「イヴの総て」です。

 

まずひとりの舞台女優、マーゴ様がおわします。

大女優ですから、良くも悪くもオーラが違う。

遅刻は当たり前だし、口は悪い。

「今度は旦那を銃でぶっ殺す役がやりたいわ~ん」

なんて物騒な注文を出す。

そんな(おっかない)彼女を演じるのは、ベティ・デイヴィス。

 

マーゴの演技にほれ込んで、来る日も来る日も劇場通い。

舞台を1日たりとも欠かさず見ている、

おぼこい演劇ファン。

そんなイヴを演じるのが、アン・バクスター。

 

あるときイヴは、ひょんなことから、

マーゴ様の付き人として働くことに。

よく気がつき、熱心に働くイヴは、ついにはマーゴ様の代役として

舞台に立つことになったのです。

 

ここでマーゴ様が激昂!

「なによ! あんな田舎娘!」

てな具合に、イヴをいびり始める。

負けずにスタァの座を目指すイヴ。

 

……と、そんな映画なのかと思います。

途中までは。

ところが、本当に怖いのは、イヴのほう。

 

よく、芸能界で成り上がるために体を与える娘、

というイメージがありますけども。

ここでのイヴは、そんなありがちな想像をはるかに越える

なりふりかまわなさ。

あの手この手で、ぐいぐいとのしあがっていきます。

 

ただし彼女ですら、安泰ではありません。

たくらみをすっかり見抜いている批評家だとか、

イヴ自身がそうだったように付き人志願にやってくる娘だとかが

彼女の周りを取り囲みます。

イヴは食い物にされず、無事生き抜いていけるでしょうか?

 

まさに「生き馬の目を抜く」という表現がぴったりの芸能界。

華やかな舞台も、板一枚剥けば、そこは地獄。

そんなおそろしさを巧みに描いています。

 

余談ですが、これ、ちょっとだけ見てみるか、とDVDをセットしたら、

2時間以上、やめられずに見終えてしまいました。

監督自身による脚本は、これでもかとばかりの、

名セリフや気の利いたやりとりのオンパレード。

「イヴの総て」でウィットに富んだ会話を学んで、

週末のパーティの人気者になりましょう。

(真に受けないように)

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起きたまま見る夢 ~今敏「パプリカ」(2006年)

2006-12-01 17:00:00

怖い夢。誰でも、身の毛がよだつような夢を見ることがあるはず。目が覚めると、背中は寝汗でひんやり。心臓の音がはっきりと聞こえてきそうなほど。夢ならいつかは覚める。しかし、もし覚めなかったら?または、起きていても夢のほうからあなたの中に流れ込んで来たら?それこそまさに、悪夢ではありますまいか。
 
この「パプリカ」は、奇才、筒井康隆の原作を、世界的に注目を浴びる今敏監督が映像化したアニメーション。主人公の千葉敦子は、精神医学研究所に勤める美貌の研究者。巨体の天才、時田浩作と共同して、「DCミニ」を開発します。これは、患者の夢に入り込んで治療をおこなうという画期的な装置。敦子のもうひとつの側面が、DCミニを装着して男たちの夢の中に入り込む夢探偵としての顔。パプリカとは、夢探偵としての彼女のコードネームなのです。
 
ところがある日、DCミニが盗まれてさあたいへん!昼間は世間の約束にしたがって生きているわたしたちも、夢の中では好き勝手をし放題。つじつまのあわない、自分だけの世界を遊んでいます。精神のバランスをとるために必要だからです。その夢が、他人に覗き込まれたり、自在に操られたりしたら……。究極のプライバシー侵害?それもそうですが、精神そのものを破壊されてしまうのも同じ。そうはさせじと、夢と現実を股に掛けた、敦子と浩作たちの捜索が始まります。
 
虎穴に入らずんば虎子を得ず、とみずから悪夢の中へと飛び込む敦子。そこで見たのは、高速道路を進む、家具や不気味な人形たちや動物のパレード。溶ける体、ゆがむ壁、思わぬところでつながる時空。アニメーションならではの奔放な想像力と、カラフルな色彩。ぎゅっと凝縮されたスピーディな展開に、息つくヒマもありません。なんとも身の毛のよだつ原作が、映像化によってぐんとリアルに迫ってきます。
 
目覚めたまま夢を見せてくれるのが映画だとしたら、夢と現実が溶け合いながら90分があっという間に過ぎてしまう、この「パプリカ」こそ、映画の中の映画、なのかもしれません。ところで、原作者の筒井氏は、執筆中、連日連夜の悪夢にさいなまれ、(「連日」じゃないかも)ある朝、目覚めると、髪の毛が総白髪になっていたのだとか。本当だとしたら、この話、怖すぎです。

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怖き者、汝の名は女なり ~ビリー・ワイルダー「サンセット大通り」(1950年)

2006-11-15 17:00:00

たいていの成人男性なら一度は、
「女って怖いよなー」と口にしたことがあるはず。
ところがその逆、つまり、
女性陣が「男って怖いわねー」と言っているのは、
ついぞ耳にしない。
男の聞こえないところでは、女も男を怖がっているのでしょうか。

てなわけで今回は、怖い女の出てくる映画。
ビリー・ワイルダー監督「サンセット大通り」です。
「お熱いのがお好き」や「アパートの鍵貸します」などで
有名なワイルダー監督は、話術の巧みさでは右に出るものがいない存在。
たとえるなら、ハリウッドの三谷幸喜、といったところ。

この「サンセット大通り」、映画が始まったとき、
すでに主人公のジョーは死んでいます。
彼が、自分が死ぬまでの顛末を語って聞かせるのがこの映画なのです。

落ちぶれた往年の大女優、ノーマの住む荒れ果てた屋敷に、
借金取りから逃れた若い脚本家、ジョーが迷い込んできます。
映画界復帰を狙うノーマは、ジョーを軟禁同然の状態で屋敷に住まわせ、
自作の脚本の手直しをさせます。
そのうち、ふたりの関係は仕事を超えたものになっていき、
嫌気が差したジョーは脱出を試みますが、しかし……というストーリー。

実際にサイレント時代(1910~20年代)の大スターだった
グロリア・スワンソン(当時51歳)が、
時代からズレまくって過去の栄光に生きるノーマを熱演。
別れた元夫(元映画監督)を執事として雇い、
ことあるごとに、自分の昔の映画を上映しては悦に入る。

よく、鬼気迫る演技、などといいますが、ここでのスワンソン、
まさにそれ。というか、執念の鬼になってます。
ブラウン管やスクリーンのこっち側にいる
わたしたちですら、悲鳴を上げて逃げ出したくなるほど。

最後、念願かなって、ノーマはひさしぶりにたくさんのカメラに
囲まれ、ライトを浴びることになります。
このラスト・シーンにも背筋が凍ります。必見。

ところで、「サンセット大通り」の構成に敬意を表して、
この駄文も冒頭に戻りましょうか。
身近にいた女性に、
「なんで女のひとは、男は怖い、といわないのだろう?」
と聞いてみますと、
「男なんてチョロい、と思っているからじゃないの」
とのお答え。

結論としては、やはり女は怖い、ということになるようです。

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