わんぱくロジャーのぬれぎぬ大冒険 ~アルフレッド・ヒッチコック「北北西に進路を取れ」(1959年)

2006-12-15 17:00:00

「恐怖」と「ユーモア」。このふたつの感情、一見、水と油のように思えます。とはいえ、感動のあまり大笑いしてしまったり、かっこよすぎて爆笑してしまったり。人間、感情の針が振り切れると、自然と笑い出してしまうもの。と、いうことは。怖すぎて笑い出してしまう場合もあるんじゃないか。てなことを考えて、ヒッチコックが映画を撮っていたかどうかは分かりませんが。ともかく、このサスペンスの巨匠は、そのユーモア感覚においてもかなりのセンスの持ち主でした。
 
今回は、彼の最高傑作の1本、「北北西に進路を取れ」です。ストーリーはごくごくシンプル。主人公はとある広告マン、ロジャー(ケイリー・グラント)。ひょんなことから、スパイに間違われ、殺し屋組織に狙われるハメになります。酒をしこたま呑まされて殺されかかったり、飛行機に追いかけられたりとさんざんな目にあいます。警察にも信じてもらえず、逆に殺人犯と間違われる始末。そんなロジャーくん、アメリカ大陸を転々とするあいだになぜか美女(エヴァ・マリー・セイント)と知り合い、彼女と行動を共にすることになりました。はてさて、ロジャーくんの運命やいかに。美女とのロマンスは成就するのか?
 
こう書くと、ご都合主義のバカ映画のようですけど。うーん、むしろアドベンチャー・ゲーム的な感覚ですかね。「迫り来る強敵をうまくかわして、次のステージに進め!」みたいな。ですから、見ているわたしたちは、手に汗握りつつ、「おー、ロジャーまたクリアしたよ。やるなー」「次の面は難しいらしいよ」「おっ、隠れキャラのオカンが出た」などとポテトチップスでも食べながら楽しんでしまえばよいわけです。
 
なにしろヒッチコックといえば、ハリウッドの大ボス的存在。その彼が繰り出してくる敵の数々、そうやすやすとクリアはさせてくれません。しかし、われらがロジャーくん、表情を変えずに黙々と敵を出し抜いていきます。その様子はどこか人間離れしていて、やっぱりゲームのキャラクターに近いものがある気がします。ぬれぎぬをはらすことも、途中からどうでもよくなってきますし。
何食わぬ顔でそんな映画を作ってしまうヒッチコック。監督、あなたがいちばん怖いです!

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怖がる娘 ~スティーヴン・スピルバーグ「宇宙戦争」(2005年

2006-12-11 17:00:00

古今東西、怖いものは数々あれど。共通する点はなんだろうか。と、考えてみます。仮定としてひとつ。「話の通じないヤツはこわい」というのはどうでしょうか。「ジョーズ」のサメであるとか、「ディープ・インパクト」の隕石であるとかが、この系統。話が通じない相手です。力づくでやっつけるか、いなくなるまで身をひそめているか、どちらかしかない。
 
今回紹介する映画も、その流れです。なにしろ、相手は宇宙人。トム・クルーズ主演、スティーヴン・スピルバーグ監督の、「宇宙戦争」です。ご覧になった方も多いと思いますが、お話はざっとこんな感じ。トム・クルーズはアメリカの下町の港湾労働者。ある日、地球上の各地にエイリアンが出現します。うまいこと息子と娘を連れて街を抜け出したトムさん、別れた奥さんの実家に向かいます。が、めちゃくちゃ強い宇宙人がそこらにうようよしているし、息子はトチ狂って、州軍に入って戦うぜ!とか言い出すし、娘はパニック状態になるし、さあー、父ちゃんどうする!
 
巨大・高速・凶暴と3拍子揃った宇宙人の乗り物「トライポッド」が注目を集めがちな本作。実は、それを怖がる人間が、きちんと人間として、ていねいに描かれているところが見ごたえありなのです。が、そのへんを紹介していると長くなりますので、ずばりここでは、娘役のダコタ・ファニングのことだけ。怖がるこの子を見ているだけでも、ほとんど元がとれてしまいます。
 
最初、何が起こったのかわからず、恐怖で半狂乱になるダコタん。かと思えば、次々に降りかかるショックを処理しきれずに、目を半開きにして、外界からの刺激に無反応状態になるダコタん。キィキィと金切り声を上げて、お兄ちゃんとお父さんをキレさせてしまうダコタん。大量の死体をうっかり見てしまい、気絶しそうになるダコタん。呼吸困難になるダコタん。これだけ多種多様な「怖がり」を演じ分けた子役も珍しいはず。いや、もう彼女の場合、子役呼ばわりは失礼。大女優、ですよね。
 
本作品、ジャンル分けすればSFになるのでしょうが、21世紀ならではの戦争映画でもあります。また、大災害のとき、パニくらずに冷静沈着な行動をとるためのマニュアルとしても鑑賞可能。さらに、子供を持つ親御さんや、児童心理学を勉強する学生さんにも、参考になるところ大でしょう。ダコタんの気を静めるため、お兄ちゃんが伝授するおまじないは必見!わたしですか?わたしは、なにか予期せぬ出来事に遭遇したとき、甲高い声で泣きわめいて周りをイライラさせるのはやめるが吉、ということをダコタんから学びました。

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和製ホラーの原点にして決定打 ~中川信夫「東海道四谷怪談」(1959年)

2006-12-06 17:00:00

さ、ここらでぼちぼち、真打ちに登場していただきましょう。中川信夫監督の「東海道四谷怪談」。アナログ感覚満載、和製ホラーの金字塔です。どれくらい金字塔かというと。中川監督のホラー以外の作品には、誰も見向きもしなくなってしまったほど。(いいのがいっぱいあるんですけどね)
 
お話は、だいたいこんな感じです。主人公は浪人・民谷伊右衛門。彼の婚約者が、かの有名なお岩さん。しかし、お岩の父、四谷左門に結婚を反対され、逆ギレした伊右衛門は四谷左門を殺してしまいます。で、事態をうまく丸め込み、めでたくお岩と結婚。すっかり夫婦の関係が険悪になった数年後。伊右衛門は、ひょんなことからお侍の娘、お梅を助けます。うっとうしい妻 vs. 結婚すれば出世が約束されている美貌の娘。となれば誰だって、妻を殺すっきゃない、と思うはず。もちろん伊右衛門も、あっさりお岩を毒殺して、お梅に走ります。で、ご存知の通り、こういう悪さをすると、「たたる」わけです。
 
そのたたりをどう見せるか。そこは監督の腕にかかっています。昔だから、CGはありません。香港じゃないから、ワイヤーアクションもありません。ついでながら、予算も時間もあまりなかったらしいです。ということで、なにからなにまで人力。戸板がくるりと回転すると、向こう側にはくくりつけられた死体が!帰宅して、桶で足を洗おうとしたら、入っていたはずの水が大量の蛇に!部屋の中で男を斬り殺すと、倒れこんだはずの畳が沼に!などと書くと、「なんだよ、色物か」と思うかもしれません。それはそのとおり。人工着色料たっぷりの駄菓子に似た味わいがあります。どこかぬめりのあるテイスト、中毒になりそうです。
 
ただし、この映画の見どころはそれにとどまりません。若杉嘉津子のお岩、池内淳子のお梅といった女優陣の美しさ。長身・色悪の名優、天知茂が演じる、伊右衛門のキャラクター。優柔不断かつ極悪非道という、考えてみたら最低男な伊右衛門と、ふたりの女とのからみは、たとえこれがホラーでなかったとしても、充分見ごたえのあるドラマなのです。
 
やりすぎなほどのたたみかけ攻撃でげっぷが出るほど怖がらせてくれたあとに、監督はとびっきり感動的なラストシーンを用意してくれました。伊右衛門が、ついにお岩に謝るのです。(遅すぎだよ!)すると、伊右衛門を許すお岩。ああ、本当にひとがひとを許すというのはこういうことなんだなあ、と、震えが来るほど。これはもはや、ホラーをはるかに飛び越えた、人類愛の映画なのです。それにしちゃ、めちゃくちゃ怖いんですけどね。

Category : 即死!ひとり見厳禁

起きたまま見る夢 ~今敏「パプリカ」(2006年)

2006-12-01 17:00:00

怖い夢。誰でも、身の毛がよだつような夢を見ることがあるはず。目が覚めると、背中は寝汗でひんやり。心臓の音がはっきりと聞こえてきそうなほど。夢ならいつかは覚める。しかし、もし覚めなかったら?または、起きていても夢のほうからあなたの中に流れ込んで来たら?それこそまさに、悪夢ではありますまいか。
 
この「パプリカ」は、奇才、筒井康隆の原作を、世界的に注目を浴びる今敏監督が映像化したアニメーション。主人公の千葉敦子は、精神医学研究所に勤める美貌の研究者。巨体の天才、時田浩作と共同して、「DCミニ」を開発します。これは、患者の夢に入り込んで治療をおこなうという画期的な装置。敦子のもうひとつの側面が、DCミニを装着して男たちの夢の中に入り込む夢探偵としての顔。パプリカとは、夢探偵としての彼女のコードネームなのです。
 
ところがある日、DCミニが盗まれてさあたいへん!昼間は世間の約束にしたがって生きているわたしたちも、夢の中では好き勝手をし放題。つじつまのあわない、自分だけの世界を遊んでいます。精神のバランスをとるために必要だからです。その夢が、他人に覗き込まれたり、自在に操られたりしたら……。究極のプライバシー侵害?それもそうですが、精神そのものを破壊されてしまうのも同じ。そうはさせじと、夢と現実を股に掛けた、敦子と浩作たちの捜索が始まります。
 
虎穴に入らずんば虎子を得ず、とみずから悪夢の中へと飛び込む敦子。そこで見たのは、高速道路を進む、家具や不気味な人形たちや動物のパレード。溶ける体、ゆがむ壁、思わぬところでつながる時空。アニメーションならではの奔放な想像力と、カラフルな色彩。ぎゅっと凝縮されたスピーディな展開に、息つくヒマもありません。なんとも身の毛のよだつ原作が、映像化によってぐんとリアルに迫ってきます。
 
目覚めたまま夢を見せてくれるのが映画だとしたら、夢と現実が溶け合いながら90分があっという間に過ぎてしまう、この「パプリカ」こそ、映画の中の映画、なのかもしれません。ところで、原作者の筒井氏は、執筆中、連日連夜の悪夢にさいなまれ、(「連日」じゃないかも)ある朝、目覚めると、髪の毛が総白髪になっていたのだとか。本当だとしたら、この話、怖すぎです。

Category : 激コワ!覚悟はいかが?

アメリカの厄落とし ~ポール・グリーングラス「ユナイテッド93」(2006年)

2006-11-29 17:00:00

怖い映画というよりも、「怖い目にあったひとたちの映画」です。
え、同じじゃないの、とお思いでしょうが、
まあおいおいお話しするとして。

このタイトルは、飛行機の便名。
ユナイテッド航空の93便のことです。
この便、2001年9月11日のアメリカの同時多発テロで
乗っ取られたうちのひとつ。
そのなかで、ただ1機だけ目標に到達しなかったこの便を
めぐる状況を描いたのが、この映画。

乗客、操縦士、スチュワーデス、テロリストに始まって、
地上の整備員、管制官などなど、人物はたくさん出てきます。
しかし、主人公はおらず、役者さんたちは見知らぬ顔ばかり。
そのため、あたかもその場にいるような臨場感が持続します。

飛行機が乗っ取られ、どうやら無事には戻れなさそうだと悟ってからの、
乗客たちの行動がリアル。
いえ、証人はいないのですが、少なくともリアルに見えます。
パニック状態になって泣きわめくひとたち。
座席の電話や携帯から家族に最後の別れを告げるひとたち。
スチュワーデスからフォークや消火器を借りてテロリストに立ち向かう男たち。

とはいうものの、これ、映画です。
阿鼻叫喚、てんやわんやから一歩引けば、
カメラがあり、照明があり、監督が椅子に座っているはず。
お昼になれば、さっきまで取っ組み合いをしていた操縦士とテロリストが、
「いてえなあ、本気で殴るなよ、ジョージ!」
「HaHaHa、かんべんかんべん、マイコー!」
などと談笑しながらサンドウィッチをパクついているかも。

不謹慎ですか?
では、こうした映画に、不謹慎でない作り方などあるのでしょうか。

同機は、目標のホワイトハウスをそれて、ペンシルヴェニア州の野原に墜落。
乗員乗客は全員死亡したのです。
この映画では、乗客たちの必死の努力でテロを防いだように
描かれていますが、実際は藪の中。
誰も分からないはずのことを、ドキュメンタリー風に仕立てて、
真実に見せかけ、乗客たちを英雄視する。
つまりこれは、アメリカにとって厄落としのような映画なのでしょう。

「乗員乗客は、怖い目にあったんだよ」
―もちろんです。身の毛がよだちます。テロはいけません。
「だから、こう脚色するのが供養なのだ」
―ふぅむ、そうですかね?

実行犯たちはどれくらい、そしてどのように恐怖を覚えたのでしょうか。
この映画からは、残念ながら、よく分からないのです。
アメリカ映画は今後もさまざまなやり方で、
この事件を怖がり続けることでしょう。
できることなら、その恐怖を体験しなかったわたしたちをも
怖がらせてくれるような映画が見たいものです。

Category : プチコワ!カップル向け

コアラの国の神隠し ~ピーター・ウィアー「ピクニックatハンギング・ロック」(1975年)

2006-11-23 17:00:00

よく、「得体の知れない恐怖」などといいます。
しかし、考えてみると。
得体が知れないから怖いのではないか。
得体が知れてしまえば、それは対して怖くないのではないか。
とも思うわけです。

暗い夜道もそうですよね。
次の曲がり角で何が出てくるか、それが予測できないから、
怖い。
たとえば、
「次の角を曲がると、塗り壁が立ちはだかっているぞ」
と予告されていれば、実物を見たときの恐怖は半減する。
……はずなんですけどね。

ということで、今回はオーストラリア映画のご紹介。
「ピクニックatハンギング・ロック」です。
いわゆる、カルト映画の基本、的な位置づけでしょうか。
けっこう独自のコワさを持っている作品です。

ストーリーはわりと単純。
1900年の2月14日、女学校の生徒たちが先生の引率で
変わった形の岩山(鬼押し出しみたいな感じでしょうか)に
ピクニックに行き、そこで、3人の生徒とひとりの先生が
行方不明になる、というもの。

何が怖いって、何が起こったのかがまったく分からないところ。
少女たちを探しにいった若者はぶるぶる震えて茫然自失の状態で
戻ってきますが、何を見たのか、何も見なかったのか、
証言はありません。
行方不明になった少女のひとりは、後日、ぐったりした状態で
発見されるものの、こちらも記憶が完全に飛んでしまっている様子。

こんな調子で、真相は不明のまま、行方不明の少女たちは戻らぬまま、
終ってしまいます。
ホラーというとおどろおどろしい音楽や薄暗い画面が
つきものですが、この映画はちょっと違う。
オーストラリアのさんさんと降り注ぐ太陽の下、
ヴィクトリア風の衣装(ややアキバのメイドさんたちのようでもあります)の少女たちが不意に消えうせるありさまを、
淡々と描いている。
ただそれだけの映画なのです。

ただそれだけ。
何の理由もなく。
説明もなし。
これほどコワいことも、そうそうない気がするのでした。

Category : プチコワ!カップル向け

怖き者、汝の名は女なり ~ビリー・ワイルダー「サンセット大通り」(1950年)

2006-11-15 17:00:00

たいていの成人男性なら一度は、
「女って怖いよなー」と口にしたことがあるはず。
ところがその逆、つまり、
女性陣が「男って怖いわねー」と言っているのは、
ついぞ耳にしない。
男の聞こえないところでは、女も男を怖がっているのでしょうか。

てなわけで今回は、怖い女の出てくる映画。
ビリー・ワイルダー監督「サンセット大通り」です。
「お熱いのがお好き」や「アパートの鍵貸します」などで
有名なワイルダー監督は、話術の巧みさでは右に出るものがいない存在。
たとえるなら、ハリウッドの三谷幸喜、といったところ。

この「サンセット大通り」、映画が始まったとき、
すでに主人公のジョーは死んでいます。
彼が、自分が死ぬまでの顛末を語って聞かせるのがこの映画なのです。

落ちぶれた往年の大女優、ノーマの住む荒れ果てた屋敷に、
借金取りから逃れた若い脚本家、ジョーが迷い込んできます。
映画界復帰を狙うノーマは、ジョーを軟禁同然の状態で屋敷に住まわせ、
自作の脚本の手直しをさせます。
そのうち、ふたりの関係は仕事を超えたものになっていき、
嫌気が差したジョーは脱出を試みますが、しかし……というストーリー。

実際にサイレント時代(1910~20年代)の大スターだった
グロリア・スワンソン(当時51歳)が、
時代からズレまくって過去の栄光に生きるノーマを熱演。
別れた元夫(元映画監督)を執事として雇い、
ことあるごとに、自分の昔の映画を上映しては悦に入る。

よく、鬼気迫る演技、などといいますが、ここでのスワンソン、
まさにそれ。というか、執念の鬼になってます。
ブラウン管やスクリーンのこっち側にいる
わたしたちですら、悲鳴を上げて逃げ出したくなるほど。

最後、念願かなって、ノーマはひさしぶりにたくさんのカメラに
囲まれ、ライトを浴びることになります。
このラスト・シーンにも背筋が凍ります。必見。

ところで、「サンセット大通り」の構成に敬意を表して、
この駄文も冒頭に戻りましょうか。
身近にいた女性に、
「なんで女のひとは、男は怖い、といわないのだろう?」
と聞いてみますと、
「男なんてチョロい、と思っているからじゃないの」
とのお答え。

結論としては、やはり女は怖い、ということになるようです。

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わたしがルールブックだ! ~ウィリアム・フリードキン「エクソシスト」(1973年)

2006-11-11 17:00:00

まったくホラーに興味がなくても、タイトルくらいは耳にしたことがあるはずのこの1本。耳にしたことがあるといえば、使われた音楽もそう。
マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」。
「題は知らなくても、聴けば必ず、ああ!といいたくなる曲選手権」が
開かれたら、かなり上位に食い込むこと間違いなしです。

物語は、わりと単純。
ある日。12歳の少女、リーガンの様子がヘン!
心配した母親が病院で検査をさせても異常なし。
しかし、そのうち、部屋のものが動くわ、おっかない声で話し始めるわ……

実は彼女には悪魔がとりついていたのですね。
なもんで、有名な悪魔祓い師(エクソシスト)の神父さんが呼ばれて、
神の力で悪魔を少女の中から追い払う。
その、手に汗握る攻防戦がこの試合の最大の見所。

え、試合?
と思われる方もいるでしょう。
そうです、これは試合です。
悪魔チーム vs. 家族チーム。
神父さんはいわば、呼ばれてきた助っ人コーチ。
だから、お父さんに向かってこんな風にアドヴァイスしてくれます。

「悪魔の口車に乗ってはいけない。悪魔は話術がうまいのだから」

さて、試合が成り立つためには、条件が必要。
ヤクザ映画には仁義があり、野球ならルールがあるように、
双方が同じ土俵に立っていなくてはなりません。

さんざん悪さをする悪魔ですが、この、同じ土俵、という点では
意外と素直。
なにしろ、キリスト教の公用語=ラテン語で、神父と直接会話するのです。
つまり、悪魔はキリスト教の中の存在だ、というわけ。

ですので、あまり信心深くない(=ルールに明るくない)。
大多数の日本人の目には、ただのスポーツの試合にしか見えない。
コワさよりも、ドキドキハラハラのサスペンス的な面白みのほうが
先にたってしまう。
見てすぐ分かりますから。

いや、とはいっても、
首がぐるりと回転したり、ブリッジしながら階段を駆け下りたりといった
古典的な名場面なんか、ふつうにコワいんですよ。

でも日本人には、キリスト教のルールに従って正々堂々と戦う。
悪魔と神父のガチンコバトルよりも、猫が化けて出たとか、
夕方道を歩いていたらサーカスにさらわれたとか、
そういうほうがよりコワいんでないのかなあ、などと思うわけです。

ともあれ、映画史に残る名試合。ぜひ一度、ご覧ください。
さあ、プレイボール!
じゃなかった。プレイバック!

Category : 即死!ひとり見厳禁

「おっかないひと」がいた時代 ~李相日「フラガール」(2006年)

2006-11-06 17:00:00

昭和は遠くなりにけり。
常磐ハワイアンセンター(現・スパリゾートハワイアンズ)の
誕生秘話を描いた映画「フラガール」(李相日監督)を見て、
そんなことを思いました。

蒼井優ちゃんや、しずちゃんちゃん(南海キャンディーズ)たちが
いっしょうけんめい練習して、フラダンサーになる話です。
舞台は福島県の常磐炭鉱。時代は昭和40年。
わたし、石炭・炭鉱モノの映画が好きでして、
ボタ山とか出てくると嬉しくなってしまうのですが、
それはともかく。

この映画、最近ではすっかり見かけなくなった、
「おっかないひと」のオンパレードです。
まず、東京からやってきたダンスの先生、松雪泰子がおっかない。
まさに“鬼コーチ”という感じ。ビシバシしごきます。

ダンスを習いに来る娘さんの親御さんたちも、おっかない。
フラダンスはまだ物珍しかったのでしょう、
ストリッパーと混同して、そんなん許すかい、とばかりに
ビンタの応酬。

となると、松雪先生も黙っていません。
可愛い生徒にビンタを食らわしたその父親を探しに、
単身、ずんずんと銭湯の男湯に乗り込んでいきます。
(混浴じゃないです)
そして発見すると、湯船の中へと殴り込み!
(着衣のままです)

一事が万事、こんな具合。

ただ、納得できるかどうかは別にして、みんな「おっかなさ」が
真っ当だから、見ていていやな感じがしないのですね。
得体の知れない変質者がうろうろしている21世紀が
家庭で作ったべちゃっとした焼き飯だとすると、
この映画の世界は、強火で仕上げた中華料理屋のチャーハン。
こわいにゃこわいけど、夕立みたいに、
通り過ぎればからりと晴れ上がる。

そういえば、わたしが子供のころは、こういうひとたちがいたなあ。
懐かしくてこわい、いわばナツコワです。

あと、完全な蛇足で……。
クライマックスの見事なダンス・シーンで、蒼井優ちゃんが、
座った姿勢から背中をぺったりと床につけて倒れこんで、
そこからまたゆっくりと起き上がってくるアクションがあります。
白の衣装だったもんで、ここ、ちょっと幽霊ぽい。
要チェックです。

Category : 余裕!お子様でもOK

映画いろいろ、怖さもいろいろ ~山田洋次「男はつらいよ(第1作)」(1969年)

2006-11-01 17:00:00

突然ですが、みなさん、怖い映画は好きですか?
「大好き!」
「うーん、どっちかっていうと苦手かな」
「普通だよ~ん」
「あーもう全然ダメ」
などなど。
たぶん、ひとによってまちまちですよね。

でも、わたしは知っています。
何をか、って?
それは、たとえ怖い映画は苦手でも、「怖いもの見たさ」の
気持ちのないひとなんて、ひとりもいないってことです。
どうです、思い当たるでしょう。

それに、怖い映画といっても、幽霊や妖怪の出てくるものばかりとは
限らない。
未知の生物や宇宙人。
浮気をしているお父さんにしてみたら、奥さんに浮気がバレるのが
何より怖かったりして。
そう、人間もけっこう怖いですよね。

そんなわけで、これから毎回、古今東西の映画の中から、
いろんな怖さを引っ張り出してご紹介していくことにします。
今回は、山田洋次監督の「男はつらいよ」です。
そう、あの寅さんです。

「えー、寅さんのどこが? いいひとじゃん」
「顔は四角くていかついけど、怖いってほどじゃないし……」
なーんてお思いでしょう。
それはシリーズもだいぶ軌道に乗ってからの、牙を抜かれた寅さんの話。
だまされたと思って、近所のレンタル屋さんで第1作を借りてみてください。

ご存知の通り、寅さんの職業はテキ屋。
いわば、良くも悪くも侠気に富んだ稼業なのです。
だから、やたらとケンカっぱやくて、口も悪い。
ちょっとしたことでおいちゃんやおばちゃんたちと
口論になるのはのちのちまで続くシリーズ名物ですが、
初期の寅さん、あまりにも容赦ない。

二日酔いのおいちゃんの代役で妹さくらのお見合いに出席するも、
酔っ払ってすっかりぶち壊しにしてしまったり。
舎弟を勝手にとらやに居候させたり。
あげく、それに文句を言ったさくらの顔を張り倒したり。
当然、おいちゃんは大激怒しますわね。
寅さんも本気で怒鳴りちらし、暴れ回ります。

あまりにもアナーキーで破天荒な寅さんにびっくりするはず。
これはこれでかっこいいんですけどね。
結論。
初期の寅さんは怖い。

Category : ややコワ!ご用心

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