怖がる娘 ~スティーヴン・スピルバーグ「宇宙戦争」(2005年 | Main | 起きたまま見る夢 ~今敏「パプリカ」(2006年)

和製ホラーの原点にして決定打 ~中川信夫「東海道四谷怪談」(1959年)

2006-12-06 17:00:00 Category : 即死!ひとり見厳禁

さ、ここらでぼちぼち、真打ちに登場していただきましょう。中川信夫監督の「東海道四谷怪談」。アナログ感覚満載、和製ホラーの金字塔です。どれくらい金字塔かというと。中川監督のホラー以外の作品には、誰も見向きもしなくなってしまったほど。(いいのがいっぱいあるんですけどね)
 
お話は、だいたいこんな感じです。主人公は浪人・民谷伊右衛門。彼の婚約者が、かの有名なお岩さん。しかし、お岩の父、四谷左門に結婚を反対され、逆ギレした伊右衛門は四谷左門を殺してしまいます。で、事態をうまく丸め込み、めでたくお岩と結婚。すっかり夫婦の関係が険悪になった数年後。伊右衛門は、ひょんなことからお侍の娘、お梅を助けます。うっとうしい妻 vs. 結婚すれば出世が約束されている美貌の娘。となれば誰だって、妻を殺すっきゃない、と思うはず。もちろん伊右衛門も、あっさりお岩を毒殺して、お梅に走ります。で、ご存知の通り、こういう悪さをすると、「たたる」わけです。
 
そのたたりをどう見せるか。そこは監督の腕にかかっています。昔だから、CGはありません。香港じゃないから、ワイヤーアクションもありません。ついでながら、予算も時間もあまりなかったらしいです。ということで、なにからなにまで人力。戸板がくるりと回転すると、向こう側にはくくりつけられた死体が!帰宅して、桶で足を洗おうとしたら、入っていたはずの水が大量の蛇に!部屋の中で男を斬り殺すと、倒れこんだはずの畳が沼に!などと書くと、「なんだよ、色物か」と思うかもしれません。それはそのとおり。人工着色料たっぷりの駄菓子に似た味わいがあります。どこかぬめりのあるテイスト、中毒になりそうです。
 
ただし、この映画の見どころはそれにとどまりません。若杉嘉津子のお岩、池内淳子のお梅といった女優陣の美しさ。長身・色悪の名優、天知茂が演じる、伊右衛門のキャラクター。優柔不断かつ極悪非道という、考えてみたら最低男な伊右衛門と、ふたりの女とのからみは、たとえこれがホラーでなかったとしても、充分見ごたえのあるドラマなのです。
 
やりすぎなほどのたたみかけ攻撃でげっぷが出るほど怖がらせてくれたあとに、監督はとびっきり感動的なラストシーンを用意してくれました。伊右衛門が、ついにお岩に謝るのです。(遅すぎだよ!)すると、伊右衛門を許すお岩。ああ、本当にひとがひとを許すというのはこういうことなんだなあ、と、震えが来るほど。これはもはや、ホラーをはるかに飛び越えた、人類愛の映画なのです。それにしちゃ、めちゃくちゃ怖いんですけどね。

footer ads here Powered by ちびログ
footer ads here